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No.37

#鉱石の森
3.fluorite、Halite
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「あれ。帰ってきてたんだ。」

「飯行く?」

「いいよ。」

 平日の昼時。
 彩葉と匡の2人は一緒にランチに行くことになった。


「あ、そうだ。これ。」

 職場の食堂につき、選んで会計も済ませた料理が乗ったトレーを持って席についてすぐ。匡が言った。
 そして金色の四角いものを彩葉に渡した。

「何これ。」

「出張のお土産。」

「黄鉄鉱みたいな色と形…の正体は…お土産定番の無難なチョコだね、ありがとう。」

「いや一言多い…待って。何してんの。」

「え?持参の岩塩(ハライト)を削ってるんだけど。」

 彩葉は黄鉄鉱…みたいなチョコをすぐに横に置くと、バッグから小さな四角い塊を取り出し包みを開け、ナイフで削っていた。

「同じ四角なら岩塩の方が好きかな。美味しいよ。」

「今価値が上がり始めている黄鉄鉱より?」

「これは普通にチョコでしょ。で、出張どうだった?」

 一通り削った後、ハンバーグと塩の乗ったご飯を食べ出す彩葉。

 ご飯の方に塩?
 相変わらずマイペースというか変わった女…いや何でもない。
 心の中でつい突っ込みが思い浮かぶが口にはせず、彩葉の言葉を受けて話す匡。

「別にいつも通りだな、いつも通り帰ってからが大変だし。」

「ふぅん。」

 彩葉が自分から降った話題だが、正直なところあまり興味はなかった、というより。
 2人は互いの仕事内容をほとんど知らなかった。
 始めは同じ部署にいた同僚だったが、もう2年くらいになるか、お互い別の部署に異動になってからはあまり顔を会わせることはなくなった。それでもたまにこうして会えばランチを共にするくらいには仲良くしている、たぶん友人と呼べる仲ではあるのだと思う。

「そっちは?」

「まぁ同じだよ、いつも通り。あ、でも明日は雨だよ。」

「…急に天気予報の話?」

 国に関わる特殊な仕事柄、どちらも仕事内容を詳しく聞くことはなかった。
 それは聞いてはいけない、そんな暗黙の了解が無意識にできていた。
 仕事の規則として守秘義務はあるが、同じ職場の友人同士でも頑なに守っているというのも自分達だけではないか、そんな気もする。
 だが2人は詳しくは聞かない。


 彩葉は匡のその話には答えず、料理を全て食べた後ご馳走さまを言って少し伸びをした。
 平らげるのがとても早かった。

「いいなぁ、私もどこか遠くに行きたい。そんで、蛍石(フローライト)のような別荘を建てて悠々自適隠居生活がしたい!」

 夢を語る彩葉。

「蛍石の家、か。前も言ってたよな。あ。というかそれも立方体では?!」

 気付いてはいけない真実に気付いてしまった、そんな風な言い方だった。

「とも限らないけどね。そろそろ戻る?」

「食べるの早すぎ。ちなみに俺はそろそろ身を固めたい。」

 唐突な話の切り出し方だと、匡は口に出してしまってから思った。
 しかし彩葉はすでにトレーを持って片付けに入っていた。
 セルフサービスの食堂なのできちんと片付けてから帰らなければならない。

「そっちもそれ前から言ってない?まぁ頑張って。」

 またね、そう言うと彩葉は1人でさっさと席を立ってしまった。
 行動が早い。


 残された匡はゆっくり食事をしながら、出張時の記憶を思い出す。
 結局あの時の占い師にみてもらっていた。
 ラッキーカラーが金色、ラッキーアイテムが立方体、そして恋愛運アップには感謝が大切、と。
 それで匡はちょうどいい出張場所でちょうどいい土産を買った。
 だから同部署の人達にも感謝を込めて土産を渡したが…何だか上手く乗せられた気もする。
 あの観光地の店はぐる(' ')だったのか。それは言葉が悪いか。商売仲間なのかもしれない。


「う~ん、蛍石ねぇ。一般的な大きさの家を建てるぐらいならあるんだけどなぁ。」
 アレが。
 財産が。

 彩葉はかなり変わっている女だと思う。でも匡はそんな彼女に振り回される感じが嫌いではなかった。同じ仕事をしていた時から。
 だから友人としてこんな風によく会っている。

 それよりも問題は、脆い蛍石から家が作れるのかどうか、そんな現実的なことをつらつらと考えつつ。   


 そしていつも通りの昼休憩の時間は終わっていく。


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1804文字, book

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宙星瑠(そらりる)

クリエイター、万年社会人大学生

No.∞/SUZURI