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No.36

#鉱石の森
2.Pyrite
彼の重要な仕事



 億岾匡(おくやま きょう)は近くにあったその山に腰かけた。
 さすがに疲れていた。
 何せこの仕事がもう3日も続いていたからだ。

 見渡す限り、くすんだ金色?の立方体、たまに他の何やらの多面体、の連続。
 それらは全て黄鉄鉱(パイライト)の山だった。
 匡が今座っているのも巨大な黄鉄鉱の山の一部だ。

「今さらゴールドラッシュとはね。」

「芸術議会のおかげでこの有り様ですよ。」
 近くにいた現地監督が匡のいる場所まで歩いてきて彼に話しかけた。

「産出量が少ない希少な(ゴールド)よりも、形のはっきりした黄鉄鉱の方が美しく実用的だとね。」
 首に巻いたタオルで汗を拭きつつ、匡のいる山まで歩いてきた彼は、今登ってきた方を振り返り話しを続けた。
 彼も休憩したかったようだ。

「あの連中は形にこだわりすぎる。」
 匡がそれに返す。体はまだ動きそうにない。

 芸術議会とは、現政権のことだ。
 まさに美しい形、芸術を好む。
 そして政策の一部で金の代わりに黄鉄鉱を使うことを決め、その石が大量に眠るこの辺りの土地を買い上げ大規模な採掘を始めた。

 匡はその視察、という名目で現地入りし、巨大な土地のためもう3日もここにいることになった、というわけだ。
 しかし、それは表の顔の仕事である。

 実は彼は源流政府の役人だった。
 源流政府、とはこの国の有史以来存在するらしい自然にまつわる、実際の政治を行う機関とは全く別の、独立した機関である。
 その存在は一般的には知られていない。
 こうした活動をする時も、表向きの役職を与えられ秘密裏にモトの仕事をしている。

「しかし見事に掘り起こしましたね。」
 何とか体を動かして、目の前の光景の感想を述べる。
「さすがにそろそろ帰りたいですしね、もうひと踏ん張りしますか。」

「あぁ、もう休憩はいいんですか。」
 現地監督はもう少し休みたかった。


 裏の政府、といえば何だか格好良く聞こえるが、実際のところ源流政府は特に何か社会的なことを決めたりするような機関ではなかった。
 主な仕事は自然、国土に関わる物事の監視、情報収集、分析、精査…そして運営。

 そんなわけで、表の視察の後が匡の本来の仕事になる。

 大きな、または小さな立方体が重なり、連なり、盛り上がった山々。

「早く帰りたい…。」
 思わず広大な黄鉄鉱の山を前につぶやいた言葉は他人の耳に入ることはなく、金色?の立方体の中に吸い込まれていったかのように思えた。




「お兄さん、恋愛運をみてあげようか。」
 その言葉は匡の耳から脳の中に吸い込まれていくようだった。

「え。」

 仕事をやっと終えた後、現地にできていた土産物屋を少し覗いていこうかと思っていた時だった。
 声をかけてきた人物は皺が目立つが老婆というほどでもない女性だった。
 アクセサリーを種類豊富につけていたが、それよりも印象に残ったのは化粧の濃さ。

 いやそれはいいとして、ここには占いの店もできていたのか。
 この短期間でずいぶんと栄えたものだ。
 …それもいい。それよりも。
 今一番気になること。

 恋愛運という言葉が吸い込まれた体の中で何かに引っかかってしまっていた。


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1371文字, book

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宙星瑠(そらりる)

クリエイター、万年社会人大学生

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